無題。
今日私は
生まれて初めて
歌を聴いて泣いた
私は映画も音楽もあまり得意ではない。
それは決してキライなのではなく、「避けてきた」と言った方がニュアンスが近いのかもしれない。
私にとって映画や音楽は、ただ楽しむものではなく、否が応でもすべてを取り込まざるを得ない、大きすぎる情報だ。
そういったものはHSPである私を動揺させ、大きく動かす。
それを怖がって、避けてきた。
というか、最近それに気づいた。
これからもおそらくそれは、あまり変わらないかもしれない。
それでも私は、今日のこの経験のことを忘れないと思う。
人生の夏休みをスタートさせて1週間。
特に何かをしたいわけでもなく、のんびりと無為の時間が過ぎていくのをただ楽しんでいた。
YouTubeでは見るともなく、映画の予告編だけが流れている。
ほんの数分の予告編を見るだけで、今の私は満足だ。
ふと目に留まった、何年か前に話題になった映画のビハインドストーリーをまとめた動画。
画面ではずいぶんと体の大きな女性がインタビューを受けている。
この映画を見ていないが、どうやらミュージカル仕立てになっているようだ。
そこに出演しているシンガーが話している。
どうやら実力があるにも関わらず、人種、ルックス、その他さまざまな理由によって、メジャー作品に出演したことはなかったようだ。
画面は切り替わり、そのシンガーが初めて他のメンバーの前で歌のプレゼンをする場面。
画面の端ギリギリの部屋の隅っこで歌い始める。
Aメロが終わってもよく聞き取れないほど普通の声。表情も硬い。
そして間奏が終わりBメロに入ったその瞬間。
彼女の中で何が起こったのか、わかる人がいたら私に教えて欲しい。
そこには別人がいた。
彼女の歌っている姿をここで文字に表すことはできない。
ただ最初とは打って変わった、自信に満ち溢れた1人のシンガーが部屋の中央に立ち、そこにいる全員を巻き込んでひとつにしていた。
「This is me」
これが私。
なぜそんなことになったのか、うまく説明できない。
ただ、歌を聴いて自然と涙が溢れたのは初めてのことだった。
おそらくこの映画を見ることはないかもしれない。
このシンガーを追いかけることもしない。
実際、なんという名前のシンガーだったかは、気に留めていなかったためわからない。
次に再び同じ動画を見ても、同じように涙が出るのかもわからない。
ただ、私の心を大きく動かしたこの瞬間を、どこかに書き留めておきたかった。